國廣誠貴(2021年度修士修了)、嶋岡永吾(2019年度修士修了)、森下修平(大学院工学研究科博士課程)、鶴町徳昭教授、舟橋正浩教授のグループ(創造工学部先端マテリアル科学コース)は、室温で液晶ガラス状態を示すオリゴフェニレンビニレン誘導体の円偏光発光と電荷輸送特性についての新しい成果を英国化学会の有力学術誌(Materials Advances)に発表しました。論文の研究内容の重要性が評価され、論文に関するイラストが同誌のBackside coverに採用されました。 論文題目:Carrier transport characteristics of glass-forming chiral liquid crystalline dimers based on oligo(phenylenevinylene) units 著者:M. Kunihiro, E. Shimaoka, S. Morishita, N. Tsurumachi, and M. Funahashi, *研究内容の詳細については、別紙をご覧ください。

キラルな二量体型液晶からの円偏光発光について
本学創造工学部舟橋研究室では、拡張π電子共役系を導入したキラルな二量体型液晶を開発しています。これらの液晶材料は室温でガラス状態を示し、高品位の円偏光発光性と電荷輸送性を示し、将来的には電気励起による円偏光発光LEDや有機半導体レーザーへの応用が期待できます。研究内容の新規性が評価され、Back coverに採択されました。円偏光発光可能な液晶性半導体は本学創造工学部の舟橋教授のグループが世界に先駆けて開発した材料であり、国際的に高く評価されています。

Materials Advancesについて
英国化学会が2020年に創刊した材料化学に関するオープンアクセス誌で、2023年にインパクトファクターが付与される予定です。国際的に注目度の高い論文が多数掲載されております。

別紙
キラルな液晶分子が凝集して形成されるキラルネマティック液晶(別名コレステリック液晶)は、分子がねじれて凝集するため、同じ向きに回転する円偏光は透過し、逆向きの円偏光を反射する性質があり、選択反射と呼ばれています(図1(a))。液晶内部で発光が起こった場合は、同じ向きに回転する円偏光が外部に放出されるので、円偏光発光材料としての研究が行われてきました。しかし、通常のキラルネマティック液晶は複屈折が小さく選択反射バンドが狭いため、非常に狭い波長領域の円偏光しか得られないという欠点がありました(図1(b))。また、円偏光発光LEDを実現するためには、半導体としての性質をもつ円偏光材料が必要です。舟橋研究室では、代表的な有機半導体であり、固体状態でも高い蛍光収率を示すオリゴ(p-フェニレンビニレン)誘導体に注目し、オリゴ(p-フェニレンビニレン)を組み込んだキラル二量体型液晶を合成しました。この液晶材料は大きな複屈折を示すため、100 nmを超える広い選択反射バンドを示します。この化合物を液晶ガラス化することにより高い円偏光蛍光を示す材料の開発に成功しました(図1(c))。

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図1 キラルネマティック液晶の選択反射と円偏光発光の概念図。(a) 分子の凝集状態と選択反射 (b) 選択反射バンド (c) 選択反射と円偏光発光の関係

?テトラ(p-フェニレンビニレン)ユニットをキラルエーテルによって結合した二量体型液晶とキラルなアルキル側鎖を導入した単量体型液晶を混合することにより、室温で液晶ガラス状態を示す混合物を調製することができました(図2(a))。液晶状態から急冷することによりガラス化するので、冷却を開始する温度を変えることにより選択反射バンドを調節することができます。図2(b)に示すように、選択反射バンドが蛍光スペクトルに重なるように調節すると、高品位の円偏光が得られ、円偏光二色比は1.4に達します。また、図2(c)に示すように、紫外パルスレーザーを照射すると、正孔が輸送されることによる過渡光電流が観測されます。液晶状態では正孔の移動度は10-4 cm2V-1s-1のオーダーですが、室温のガラス状態でも10-5 cm2V-1s-1を超えます。キャリア移動度の電界?温度依存性の解析から、分子の平面性が移動度向上に有効であることが明らかになりました。今後、電気励起による発光に向けて、さらなる移動度?発光量子収率の向上を検討する予定です。

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図2(a) テトラ(p-フェニレンビニレン)骨格を有する液晶材料の分子構造 (b) 液晶ガラス薄膜からの円偏光蛍光スペクトル (c) 液晶混合物での過渡光電流波形

?本研究を進めるにあたり、科学研究費基盤研究B、池谷科学振興財団、JKA研究補助、文部科学省ナノテクプラットフォーム事業(No. JPMX09F19GA0004)の支援を受けている。

掲載誌:Materials Advances, 2022, 3, 8428 - 8437 (DOI: 10.1039/D2MA00899H)

採択されたBack cover picture
本研究で合成した液晶分子が凝集して、ねじれた凝集状態が形成される様子を画像化しました。背景は高松市久米池より眺めた屋島です。3D化されたうさぎは、創造工学部先端マテリアル科学コースのコースキャラクターの「うさたん」です。プラス電荷をもった「うさたん」、つまり、正孔が、分子がねじれて凝集した液晶相の中を伝導します。液晶分子の構造式、分子の凝集状態の模式図、正孔が効率的に運動していることを示す過渡光電流、液晶薄膜による円偏光の反射と円偏光蛍光を1枚の絵にまとめました。

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お問い合わせ先 
香川大学 創造工学部 教授 舟橋正浩
TEL:087-864-2411
E-mail:funahashi.masahiro@kagawa-u.ac.jp
※上記不在の場合 香川大学 林町地区統合事務センター
総務課 庶務係 大森?北村
TEL:087-864-2000 FAX:087-864-2032
E-mail:shomu-t@kagawa-u.ac.jp