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 金沢工業大学、徳島大学、香川大学、産業技術総合研究所からなる研究チームは、脳で機能することが知られている神経栄養因子BDNFの発現低下が、末梢臓器である肝臓の疾患発症に関与することを発見しました。本研究成果は2023年10月2日にジョン?ワイリー?アンド?サンズ社の英国科学雑誌 「The Journal of Pathology」に発表されました。

<研究内容>
 「脳由来神経栄養因子BDNF」は脳の発達や記憶、学習をはじめとする脳の働きに必須のタンパク質として知られています。しかし、その役割は脳だけでなく、摂食、体重のコントロールにも関与することが報告されています。本研究では、BDNFの発現量が低下したマウスの末梢臓器を調べてみたところ、脂肪肝の状態にある肝臓が見つかり、驚いたことに非アルコール性脂肪肝炎(NASH)*を発症していることがわかりました。
 NASHの発症には、肝臓における代謝障害のみならず、肝外組織の炎症などが関与することが近年報告されております。そのため、研究グループは脳機能の低下とNASHの発症が関係するかもしれないと仮定し、BDNF発現低下マウスにおいて肝臓組織の病理組織学的解析と遺伝子発現変化を調べることのできるトランスクリプトーム解析を中心に行いこれらを検証しました。
 その結果、BDNF発現低下マウス(2種類のBDNF遺伝子改変マウス)においてヒトのNASHの臨床学的特徴のすべてが観察されることを見出しました。具体的には、肥満、高血糖、高インスリン血症、肝臓における脂肪蓄積、炎症および線維化が見つかり、また、肝外病変として脂肪組織における炎症像(crown-like structure)を確認しました。加えて、トランスクリプトームの解析により、脂質代謝障害や好中球の浸潤、酸化ストレスの亢進などを示す挙動を確認することができました。これらの結果から、BDNF発現低下マウスが自己免疫性肝炎や薬剤性肝障害などの他の肝疾患ではなくNASHを発症していることが確かめられました。
 BDNF発現低下マウスには、記憶?学習への影響だけなく、BDNFが摂食中枢に抑制的に作用することにより過食を引き起こし、肥満関連代謝障害が引き起こされることが知られています。そこで次に我々は、BDNFの肝臓への作用と過食への作用を分けるため、BDNF発現低下マウスに摂食制限を施し、肥満に依存しない、BDNFの肝臓への直接的作用について調べました。その結果、BDNF発現低下マウスでは摂食制限によって体重増加や血糖値上昇が抑制されているにもかかわらず、肝臓において好中球を含む炎症細胞の浸潤が起こることを見出しました。これらの結果は、BDNFが肥満に依存しない機序を介して、直接肝臓の炎症に影響しうることを示しています。
 以上の研究はNASHの発症メカニズムへの理解や、その治療法の開発に役立つものと考えられます。

*NASHとは
非アルコール性脂肪肝炎(NASH, non-alcoholic steatohepatitis)は、メタボリックシンドロームを基盤病態とする肝臓の生活習慣病です。しかし、単なる脂肪肝とは異なり、肝臓組織にリンパ球や好中球が浸潤する、肝細胞が風船様に変性するといった炎症の発生、肝臓組織にコラーゲンが蓄積する線維化を顕著な特徴としています。これらの病態の持続は肝不全や肝癌などのリスクにもなりうるため、NASHの治療および診断技術の開発は世界的に急務となっています。また、2023年6月にNASHは代謝障害関連脂肪肝炎(MASH, metabolic dysfunction-associated steatohepatitis)へと疾患名が改められましたが、本論文は6月以前に投稿されており、NASHという疾患名で論文内に記載されていることから、この報告書においてもNASHの名称を用いました。

<発表論文>
Brain-derived neurotrophic factor knock-out mice develop non-alcoholic steatohepatitis
The Journal of Pathology (2023年10月2日オンライン掲載)
doi:10.1002/path.6204

<発表者と所属機関>
清水真祐子(徳島大学大学院医歯薬学研究部)
小島正己 (金沢工業大学応用バイオ学科(前職 産業技術総合研究所))
鈴木辰吾 (香川大学医学部/産業技術総合研究所)
宮田実咲 (金沢工業大学大学院バイオ?化学専攻)
尾﨑ゆい (徳島大学大学院医歯薬学研究部)
松井このみ(産業技術総合研究所)
水井利幸 (産業技術総合研究所)
常山幸一 (徳島大学大学院医歯薬学研究部)

◇お問い合わせ先
 <代表>
 学校法人金沢工業大学 企画部広報課
 担当 志鷹英男
 電話 076-246-4784
 E-mail:koho@kanazawa-it.ac.jp

 <香川大学>
 香川大学医学部 神経機能形態学
 准教授 鈴木辰吾
 E-mail:suzuki.shingo@kagawa-u.ac.jp

 <徳島大学>
 徳島大学医大学院医歯薬学研究部 疾患病理学分野
 講師 清水真祐子
 E-mail:ichimura.mayuko@tokushima-u.ac.jp

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 香川大学医学部 総務課広報法規?国際係
 電話 087-891-2008
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