研究内容の概要
障害のある子どもや特別な配慮を必要とする子どもが、就学前施設(保育所?幼稚園?認定こども園)で心豊かにいられる状態について、子どもの声を聴くというアプローチを参考に研究をしています。たとえば、子どもの声をもとに保育や教育の改善を志向するアセスメント(評価)です。
教育で評価というと、通知表やテストの点数のように客観的に数値で示されるものを思い浮かべることが多いと思います。ただ、それは大人の「ものさし」であって、一人一人の子どもが大切にしたい「ものさし」は大人とは違うのではないでしょうか。そこで、子どもの育ちを大人が一方的な基準によって評価するのではなく、子どもが大切にしている価値観などを踏まえて、子どもと対話的に評価する方法論を検討しました。
まず、子どもの声には、言葉以外の表情やしぐさなどのサインも含まれること、次に子どもの声を明示するために、ドキュメンテーションやポートフォリオなどの可視化した記録のあり方、そして、その記録を媒体として活用し、子どもとの対話のもとで保育?教育を検討する方法を明らかにしました。
将来的には、一人一人の子どもの声が尊重される保育施設のあり方として、インクルージョンに向かう保育?教育のしくみを明らかにしたいと考えています。
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研究を始めたきっかけと魅力
きっかけは、大学の卒業論文で出会ったお子さんです。自閉症のお子さんが幼稚園に入園してからの変化を研究しました。障害のある子どもを初めて受け入れた幼稚園で、先生方と一緒に悩みながら、話しながら進める中に加えてもらいました。子どもを保育するとは何か、支援とは何か、など根本的な問いを考えるきっかけになりましたし、子どもの傍らにいる存在としてどうあるべきか、も考えさせられました。
研究の魅力というより、研究に取り組んでいる人が魅力的だと思っています。それぞれが自らの疑問について調べ、語り、世界を広げていくことを喜んでいる人と関わると、こちらも嬉しくなります。
今後進めたい研究
近年、医療的ケアの必要なお子さんの保育所や学校への受け入れが広がっています。さまざまな医療的ケア児がいますが、保育や教育の時間に看護師による喀痰吸引や導尿などのケアが必要です。そういったお子さんに対して、周囲の子どもたちや大人が「ケアが必要」という一側面でのみ子どもを理解してしまうと、常に受け身で支援を受けている子どもという印象を持たれかねません。そこで、ケアを受けている以外の側面から子どもを理解できるように、可視化した記録を使って保育者の意識や実践がどのように変わるのかを検討したいと思っています。
メッセージ
「研究」というと仰々しいように聞こえるかもしれません。ただ実際は、すごく身近なことですし、それに取り組むことで少し周りの世界が変わるという魅力があります。よく知られているSDGsは、2030年までの目標です。次の目標の有力な候補にはSWGs(Sustainable Well-Being Goals)が挙がっています。研究を通して、自らと身近な人たちが幸福になれるような研究をやってみませんか。
関連する事業採択実績、受賞歴、特許等
書籍:子どもの声からはじまる保育アセスメント(北大路書房、2024年)
特別な配慮を必要とする子どもが輝くクラス運営(中央法規出版、2018年)
日本学術振興会科学研究費採択研究課題:基盤研究(B) 19H01652 多声的保育評価の開発:子どもと保護者の声を評価に導入する方法の提案、基盤研究(B) 24K00396 日本のオルタナティブ?アセスメントは、乳幼児の多様な学びを読み取れているのか、挑戦的研究(萌芽) 24K21458 医療的ケア児の保育に関する実践共同体の構築-モバイルエスノグラフィーの活用-
趣味
趣味はスポーツ観戦で、特に野球が好きです。シアトルの球場と東京ドーム(引退のとき)で、生イチローを見ました。MLBのキャンプにも行きました。当時テキサス?レンジャーズにいたダルビッシュ、上原浩治、建山義紀を見ました。建山さんは、すごく良い人でした。
おすすめの本
?鉄腕アトムと晋平君: ロボット研究の進化と自閉症児の発達/渡部信一/ミネルヴァ書房, 1998
?先生はえらい/内田樹/筑摩書房, 2005
?「聴く」ことの力:臨床哲学試論/鷲田清一/阪急コミュニケーションズ, 1999
?手の倫理/伊藤亜紗/講談社選書メチエ, 2020