香川大学 工学部知能機械システム工学
教授 石丸伊知郎
光計測分野
2017/11/16 掲載
研究結果の概要
平成29年度全国発明表彰 21世紀発明奨励賞 『小型中赤外分光イメージング装置の発明』(特許第5120873号)を受賞しました。この技術は、日常生活において様々な成分を手軽に計測する技術に適用展開されることが期待されています。例えば、体内の血糖値を針を突き刺すこと無く光を照射するだけで計測する非侵襲血糖値センサーです。また、ドローンに搭載することにより、広大な農地の栄養分布を上空から計測して必要な場所だけに農薬や肥料を散布する技術としても開発が進められています。更に、非破壊計測が必須となる国宝や重要文化財に使われている染料などの成分同定技術の研究も開始しています。
研究の背景
分光とは、光を波長毎の明るさに分離する光学技術です。一般的には、ガラスのプリズムに太陽光(白色光)を照射すると、赤色から青色まで虹のように分離できる現象としても良く知られています。赤外光は、目では見ることのできない波長の長い光です。この長波長の赤外光では、物質の成分毎に吸収される光の波長が異なります。つまり、計測試料に赤外光を照射して、物質により吸収された光の波長を分光技術により調べれば非破壊で成分の同定が可能になります。赤外分光技術は、従来から分析化学の専門家が研究室に試料を持ち帰って解析する手法として用いられてきました。しかし、赤外分光装置が大型で高額であることから専門家が研究室内で使用する技術に留まっていました。
研究の成果
私は、赤外分光装置の新たな光学構成を考案することにより、手のひらサイズで可搬性の高い中赤外分光イメージング装置を実現することができました。将来は、スマートフォンに内蔵できる超小型の分光装置にも原理的に展開することが可能です。これにより、従来、研究室内で培われてきた分光解析技術を、日常生活空間で活用することが可能になりました。
研究の魅力
工学研究の魅力は、多くの人々の幸せを支える技術の基盤作りにあると思っています。日常生活に適用できる世界初の赤外分光イメージング装置を、医学部や農学部、また考古学や美術系の研究者らとの異分野融合の研究により世の中に広く貢献することを目指しています。
理系の研究者に進もうと思ったきっかけ
法隆寺の昭和大修理に携わった宮大工 西岡常一さんが、「自分の仕事は千年後に評価される」と仰ったのを、中学時代にテレビで見たのが理系の研究者に進もうと思ったきっかけです。
建造物に用いた木材の千年後の反り具合は、木が育った土地が山の南側だったのか北側だったのか、あるいはどちら側が根元かによって色々と変わるそうです。その反り具合を匠に組み合わせて木材を用いることで、千年後も反らない構造を維持できるそうです。また、屋根瓦は重たいので、修復時には少しきつめに屋根の反りを付けておくことで千年後に自重で締まることにより最適な形状になるそうです。私も、宮大工のように「後世に残る仕事」を、一研究者として是非とも実現したいと思っています。
この研究の将来的な展望
私は高松生まれで、企業で10数年働いた後に、生まれ故郷 香川に創設された工学部へ2000年に参りました。香川の地から日本全国、また世界に、健康医療や環境、文化財保存修復など様々な分野へ展開していきたいと思っています。
趣味
テニスやウォーキング、フィットネスジムで体を動かすことです。