香川大学 医学部医学科薬理学
准教授 人見浩史
薬理学 再生医学 腎臓病学
2018/01/11 掲載
※2018年5月より関西医科大学医学部教授
研究結果の概要
●iPS細胞を用いてエリスロポエチン(EPO)産生細胞の作製に世界で初めて成功しました?
●腎性貧血に対して細胞療法の可能性を初めて示しました?
●新しい貧血治療薬を開発するツールとしても期待できます
研究の背景
全身に酸素を運ぶ赤血球は、エリスロポエチン(EPO)という物質の血中濃度に応じて産生量が調節されています。EPOは胎児期には肝臓の細胞から作られますが、成人では腎臓にあるEPO産生細胞から放出されます。そのため、腎臓に障害が発生するとEPO産生細胞の働きが弱くなり、EPOの量が減少、赤血球の産生量も低下し、貧血状態になります。これを腎性貧血といいます。これまではヒトのEPOを人工的に作った製剤が開発されており、それを腎性貧血の患者さんに注射で投与することにより赤血球の産生を促していました。しかし、そもそも製剤が高額であることと、正常な状態のようにある程度一定の血中濃度になるよう調整するのが難しい、またEPOに対する抗体が体内で作られてしまうことがあるなど課題もありました。そこで我々の研究グループは、ヒトiPS細胞からEPO産生細胞を作ることを試みました。
研究の成果
ヒトiPS細胞からEPO産生細胞を作製することに、世界で初めて成功しました。国内で年間100億円、世界では年間1兆円用いられている腎性貧血の治療で、この細胞を用いた新しい細胞治療の可能性を示すことができました。またiPS細胞由来のEPO産生細胞は、腎性貧血の治療薬を開発したり、薬の副作用を調べたりすることにも有用であると考えられます。慢性腎臓病患者数は増加しており、今後需要の増す腎性貧血治療に対して安価で生理的な治療を提供する重要な技術として期待されています。
研究の魅力
人体の研究は太古の昔から行われてきましたが、明らかになっていることはほんの少しでまだまだ分からないことばかりです。また病気の治療に関しても、現在の医学では残念ながら完全に治すことのできない病気が、まだまだたくさんあります。医師として患者さんの治療に従事することは好きですし、最も大切なことではあるのですが、同じくらいに人体について理解し、新しい発見をし、新しい治療法を研究によって開発することも大切なことだと思います。研究は一人でできることではなく、多くの方々のサポートによって行われています。研究を続けられることに感謝するとともに、香川大学の研究者として研究を行うことに誇りをもって、今後も新しい発見を求めて研究を続けます。
研究を始めたきっかけ
もともと研究は好きだったのですが、臨床医として多くの患者さんの診療を行う中で、現在の医学で十分対応できない問題を経験しました。そういった臨床から出る疑問点を解決するには研究しかないと感じて研究を始めました。20年経過した現在まで研究を続け、いくつかの基礎的な成果を得ることができました。この研究で得られた成果や知見を研究室内で留めることのないように、一人でも多くの患者さんに研究成果を届けるよう頑張ります。
この研究の将来的な展望
iPS細胞は、ノーベル生理学?医学賞を受賞された山中伸弥先生が樹立された細胞であります。患者さんの細胞から樹立することが可能で、ほぼ無限に増殖する能力を有する多能性幹細胞であるiPS細胞は、再生医療の実現に重要な役割を担う細胞であります。すでに加齢黄斑変性という病気の患者さんの治療に用いられています。近くパーキンソン病の患者さんにも、治療が開始される予定となっています。我々の発見も、これらに続くべく一日も早い臨床応用を目標に、日々研究を行っています。
今、お読みの本を教えてください
研究がうまくいかないとき(今も残念ながらうまくいかず読んでいます)、山中先生が書かれた「山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた」(写真)を読み返しております。ユーモアを交え、研究を続けることについて、また科学の可能性について、大変わかりやすく書かれています。中学生の娘も読んでいますので、皆さんにお勧めいたします。
趣味
日々研究です。