香川大学 農学部応用生物科学科動物細胞生物学研究室
助教 杉山康憲
生化学 細胞生物学 分子生物学
2018/03/14 掲載
研究結果の概要
2017年11月に「マルチPK抗体を利用したプロテインキナーゼ研究」というタイトルで日本電気泳動学会奨励賞(服部賞)を受賞させていただきました。地球上の全ての生物は外界の環境に応答することで生存していますが、この応答には細胞内情報伝達機構が重要な役割を果たしています。細胞内情報伝達機構の中心的な役割を果たしているのがプロテインキナーゼであり、プロテインキナーゼによってほとんど全ての生命現象が制御されているといっても過言ではないでしょう。我々は、ヒトの細胞内に500種類以上存在するプロテインキナーゼをまとめて検出することができる“マルチPK抗体”というモノクローナル抗体を作製しました。これまでに、この抗体を利用することで、2型糖尿病や遺伝子発現制御機構など様々な生命現象の分子メカニズムを解明してきました。
研究の背景
タンパク質リン酸化酵素であるプロテインキナーゼは全遺伝子の約2-3%を占め、生体内の大部分のタンパク質がリン酸化されることから、ほとんど全ての生命現象に関わることが知られています。そのため、プロテインキナーゼは癌をはじめとする様々な疾病の原因遺伝子であることも知られています。これまでに、プロテインキナーゼを解析するための様々な手法が開発され、多くのキナーゼの解析がなされてきました。ひとつのプロテインキナーゼを解析する手法は多く知られていますが、細胞内プロテインキナーゼをまとめて解析できる手法は開発されていませんでした。そこで我々は、細胞内プロテインキナーゼをまとめて解析する手法の開発を行ってきました。
この研究の将来的な展望
我々は、細胞内プロテインキナーゼをまとめて解析するために、ユニークなモノクローナル抗体である“マルチPK抗体”を作製しました。マルチPK抗体はプロテインキナーゼ間で高度に保存されている触媒領域の中でも最も高度に保存されているサブドメインVIB配列を抗原としており、ヒト、マウス、ゼブラフィッシュ、アフリカツメガエル、ミヤコグサ、担子菌キノコなど多様な生物種から幅広いプロテインキナーゼを特異的に検出することができます。また、この抗体を用いることにより、細胞内プロテインキナーゼをプロファイリングする方法や、簡便に同定する方法など様々な手法を開発してきました。これらの手法を用いることにより、例えば、2型糖尿病が深刻化する要因である糖毒性に関わるプロテインキナーゼとして、Calcium/calmodulin-dependent kinase IVを同定し、その役割について明らかにしました。最近になり、マルチPK抗体とPhos-tag(リン酸基と特異的に結合する化合物)を組み合わせた新手法として、細胞内プロテインキナーゼの発現量と活性化状態をまとめて解析する方法を開発しました。現在、この手法を用いて2型糖尿病や癌に関わるプロテインキナーゼの探索を行っています。今後、この手法が広く利用されることにより、様々な生命現象の解明や疾病の原因究明に役立つことを期待しています。
研究の魅力
世界で誰も知らないことを解き明かすこと。まだ見ぬ世界に初めて触れられること。これに尽きるのではないかと思います。
研究を始めたきっかけ
研究者という、誰も知らないことを明らかにする職業に憧れを抱いたことが最初のきっかけだと思いますが、知らないことを探求するという意味では人は生まれながらに研究者なのかもしれませんね。
今、お読みの本を教えてください
故?伊藤 計劃のSF作品である「虐殺器官」と「ハーモニー」を読み終わったところです。多くのSF作品には非常に面白い発想や着眼点があり、研究と通じるものを感じます。
趣味
料理をして酒を嗜むこと、最近は燻製作りにはまっています。料理と研究は似ているところがあり、料理は実に楽しく、美味しく、まさに一石二鳥かと思います。