香川大学 理事?副学長
農学部?応用生物科学
教授 片岡郁雄
園芸科学/果樹園芸学
2018/05/11 掲載
研究の概要
キウイフルーツに類縁の日本国内に自生分布するマタタビ(Actinidia)属植物について、北海道から南西諸島に至る広域で探索?収集し、それぞれの遺伝的変異、結実性、果実形質、環境適応性などの詳細を調査しました。これらの自生種が有する有用形質をキウイフルーツの栽培や品種改良に活かすため、接ぎ木親和性、交配和合性、環境ストレス耐性などを明らかにし、新品種や栽培技術の開発に結びつけました。これらの研究成果により、平成30年3月、「マタタビ属自生資源の探索?特性評価とキウイフルーツ育種?栽培への活用」の業績で、園芸学会賞を受賞しました。
研究の背景
近年、店頭でみかけるキウイフルーツは、果実表面に硬い毛があり果肉が緑色の「ヘイワード」という従前の品種に加え、果皮に毛がなく黄色い果肉で、甘みの強いゴールド系品種の割合が増えてきました。また国産と合わせニュージーランドからの輸入により、年中手に入る日常的な果物として受け入れられるようになりました。キウイフルーツは多くの果物の中でも、各種のビタミン類や食物繊維が特に豊富に含まれることから、健康に良い果実として意識され、さらに消費が伸びつつあります。このように日常の果物として定着したキウイフルーツですが、その歴史は浅く、原産地の中国から種子が持ち帰られ、ニュージーランドで商業的な生産が始まってから約100年に過ぎず、日本での生産や販売が開始されてからは、わずか50年しか経っていません。このため、品種の数は限られており、特徴ある多様な品種の育成が求められています。
キウイフルーツは、穏やかな気候条件を好み、寒さや暑さ,土壌の乾燥や過湿に弱く、日本のような年間の環境変化が大きなところでは、収量や品質に影響が出て,生産が不安定となります。とくに近年進みつつある温暖化は、キウイフルーツの生育にも影響を及ぼし始めており、環境ストレスに耐えられるタフな品種の開発が望まれています。
キウイフルーツは、中国本土に自生するマタタビ属の植物で、A. deliciosaとA. chinensisの2種を含んでいます。中国本土には、これらを含む60種以上が自生分布しており、そのうちのいくつかは、亜寒帯や亜熱帯まで広く分布しています。
研究の主な成果
1.温暖地自生種シマサルナシ(A. rufa)の特性
シマサルナシは、日本国内を主体に分布し、紀伊半島南東部を東限として、淡路島、四国?九州の太平洋岸、沖縄?南西諸島にかけて自生しています。各地で調査を行ったところ、果実は褐色無毛で、果肉は濃緑色が基本ですが、大きさや果肉色、果実成分に変異が見られました。特にA. deliciosa種のキウイフルーツと比べ、果汁中のタンパク質分解酵素活性が著しく低く、摂食時の口内刺激がないことが明らかとなりました。
2.シマサルナシの栽培?育種への活用
日本国内に自生するシマサルナシ は、すべて雌雄異株性であり、染色体の倍数性は二倍体で、交配試験によりA. chinensis種キウイフルーツの二倍体品種との間で極めて高い交雑和合性を有し、高率で後代が得られることを見いだしました。これらの交雑後代を用いて、香川県農業試験場との共同により、小型で食味が優れ、豊産性を示す個体を選抜し、2014年に「香川UPキ1~5号」として5品種を農林水産省に登録しました。
一方、シマサルナシを台木とした接ぎ木試験の結果、A. deliciosaやA. chinensis種のキウイフルーツ品種と高い接ぎ木親和性をもつことが明らかとなりました。
3.両性?自家結実性個体群の発見
キウイフルーツを含むマタタビ属植物は、基本的に雌雄異株であり、実を着けるには、雄樹の花粉を雌樹の花に授粉する必要があります。この授粉や花粉の調達にかかるコストは大きく、キウイフルーツ生産の課題となっています。本研究において、シマサルナシの自生地での探索の過程で見いだした四倍体の個体群が、マタタビ属では極めて希な両性?自家結実性であることを発見しました。
4.冷涼地自生種サルナシ(A. arguta)の特性
比較的冷涼な地域に自生するサルナシについては、房総半島以西の低山地に日本固有の二倍体変種が分布し、北海道から九州までの山地には四倍体が広く自生分布しますが、広域調査の結果、これらに加え、六倍体、七倍体、八倍体の高次倍数性変異が存在し、山形、福島西部、新潟、長野北部にまたがる多雪地帯にのみ自生分布することを見出しました。このような明瞭な地理的局在性を伴う倍数性変異が日本国内に生じたことは,気候変動への適応進化との関係からも興味深く、海外からも注目されています。
また、果実特性について、アスコルビン酸含量やタンパク質分解酵素活性が、キウイフルーツに比べ著しく高く、自生系統間に大きな変異があることを明らかにしました。また、サルナシは、A. deliciosa種キウイフルーツとの交雑和合性が高いことや、高次倍数性系統に単為結果性が発現すること、さらに着果や果実発育の促進にサイトカイニン活性のあるCPPUが極めて有効であることを示しました。
この研究の将来的な展望
4種に限られる日本国内の自生種に、様々な有用形質や多様な変異が存在することが明らかになり、品種改良において重要な材料となり得ることが示されました。これまでに得た知見をもとに、キウイフルーツの品種の多様化や温暖化適応性の拡大を目的として香川県との共同による新たな育種プログラムが進展しています。また、タイ?カセサート大学およびロイヤルプロジェクト財団の協力の下、亜熱帯の気候条件にも適応可能な極少低温要求性キウイフルーツの開発に着手しました。一方、京都大学グループとは、雌雄分化に係る遺伝子解析に取り組んでおり、最近、雌雄性を決定する遺伝子を特定しました。
研究の魅力
これはいける!というアイデアが浮かび、寝食忘れて(実際はしっかり寝て食べますが)実験や調査をし、ピタリとはまって実証できた瞬間の得も言われない感覚が、研究の本質的な魅力です。これを学会発表や論文にとりまとめることで、学術的な達成感が得られ、さらに研究成果が実用的な技術となり、あるいは実用品種として生産現場に普及し、流通販売された果実が消費者に受け入れられれば、研究者としての本望が叶います。自生資源の探索や果樹園での現地調査では、研究者の立場で勝手なお願いをすることが多々ありますが、「研究」に役立つならと、地元や生産者の方々は、寛容に受け止め快く協力?支援して下さいます。多くの方々の期待に応え、新たな発見を通じて研究成果を社会に還元できることは研究の醍醐味です。
研究に関心をもったきっかけ
小学生のころ買ってもらったジュールヴェルヌの全集を読んで、探検や科学というものに漠然とあこがれました。出身が岡山なので、ブドウやモモなどの果物に馴染んでいたことも、果樹の研究に関心をもったきっかけかもしれません。
研究関連のURL
マタタビ属?キウイフルーツ研究
https://www.actinidia-research.com/actinidia_research_index.html